クリスチャン・シュプックの新演出は、E.T.A.ホフマンの文学的原作を中心に据え、幼少期の無垢さと自己認識の目覚めとの緊張関係を強調している。
1816年のホフマンの物語、そして1892年のマリウス・プティパとピョートル・I・チャイコフスキーによるバレエ化以来、『くるみ割り人形』はバレエの最も有名な古典作品のひとつとなった。本来は豪華なディヴェルティスマンとして構想され、20世紀を通じて繰り返し上演される中でクリスマスの儀式へと発展した一方、その心理的・文学的深みは次第に背景へと退いていった。シュプックはこの歴史的伝統を踏まえ、クラシック・バレエの言語に忠実でありながら、ホフマンの物語の繊細な側面にも光を当てる作品を創作している。
音楽面では、世界的に有名なチャイコフスキーの楽曲を基盤とし、童話的な軽やかさ、劇的な緊張感、そして超現実的な夢幻的イメージの対比に独自の響きを与えている。
このバレエは単なるクリスマス公演ではなく、成長・自己発見・現実と想像の境界についての詩的で現代的な考察である。シュプックの新しい版はベルリン版『くるみ割り人形』として、クラシックの伝統と文学的ロマンを融合させ、原作の魔法を保ちながら、子どもと大人の双方に向けた多層的で現代的な体験を提供する。
あらすじ
演出によって物語の展開に相違があるが、あらすじは概ね次のような内容である
第1幕第1場
主人公クララのいるシュタールバウム家では、友人たちを招いてクリスマス・イヴのパーティーが開かれている。招待客の中には、クララの名付け親のドロッセルマイヤーもいる。ドロッセルマイヤーは、子供たちに手品や人形芝居を見せて驚かせた後、不格好なくるみ割り人形を取り出す。クララはなぜかその人形が気に入り、ドロッセルマイヤーに頼んでプレゼントしてもらう。クララの弟(兄)のフリッツが人形を横取りして壊してしまうが、ドロッセルマイヤーが修理する。やがてパーティーは終わりとなり、客たちは家路につく。
真夜中、くるみ割り人形のことが気になったクララは、人形が置かれている大広間のクリスマスツリーの元へと降りていく。その時、時計が12時を打ち、クララの体がみるみる縮んでいく(舞台ではクリスマスツリーが大きくなることで表現される)。そこへねずみの大群が押し寄せ、くるみ割り人形の指揮する兵隊人形たちと戦争を始める。戦いはくるみ割り人形とねずみの王様の一騎討ちとなり、くるみ割り人形は窮地に陥るが、クララがとっさに投げつけたスリッパがねずみの王様に命中する。その隙にくるみ割り人形はねずみの王様を倒し、ねずみ軍は退散する。クララは倒れたくるみ割り人形を心配するが、起き上がったくるみ割り人形は、凛々しい王子の姿に変わっていた。
第1幕第2場
くるみ割り人形は自分を救ってくれたクララに感謝し、その礼にお菓子の国へと招待する。2人は雪が舞う森を抜けて、お菓子の国へと向かう。
第2幕
お菓子の国に到着した2人は、女王である金平糖の精に迎えられる。クララを歓迎するため、チョコレート、コーヒー、お茶、キャンディなどのお菓子の精たちが次々と踊りを繰り広げ、最後は金平糖の精と王子がグラン・パ・ド・ドゥを披露する[注釈 8]。しかし、楽しい夢はやがて終わりを迎える。朝が訪れ、自分の家で目を覚ましたクララは、傍らのくるみ割り人形を優しく抱きしめる。